家族や友達には話しにくいけど、でも誰かに聞いてほしいこと

家族や友達には話しにくいけど、でも誰かに話したいこと

日々いろんなことを考え、悩むけれど、家族や友達には話しにくい。でも誰かに話したい。そんな話をつらつら綴ります。アラサー、子無し主婦、海外在住、駐在妻。

星の見えないこの街で

この街は星が見えない。

 

ビルの明るすぎるイルミネーションのせいか、大気汚染のせいか。

その両方か。

 

ちなみに、私は先日の健康診断で両眼とも視力1.5を叩き出したので、私の目が悪いのではない。

 

もちろん裸眼で。

視力が良いのは、昔からの数少ない取り柄の1つ。

 

 

 

 

私の住んでいるマンションは、川沿いの煌びやかなビル群から徒歩30分の距離にある。

 

 

この街のビルは、東京よりも形やイルミネーションのデザインが凝っていて、とても派手だ。

単調な四角柱のビルを探す方が難しいかもしれない。

 

 

赤、青、黄色、緑・・・

ビルの壁を上から下まで駆けめぐる光。

  

ビルがよく見える場所では、毎日必ず誰かがスマホを掲げて写真を撮っている。

 

ビル群を一望できる川の対岸が、この街随一の夜景スポット。

一般的に「外灘(The Bund)」と呼ばれる。

 

 

 

都会に住んだことがなかった私は、初めてビル群とイルミネーションを見たときには心が躍った。

 

写真もたくさん撮った。

スマホの画像フォルダには、街のシンボルであるピンク色のタワーが並んでいる。

 

 

 

 

 

しかし、2年半経った。

 

 

ギラギラと輝くビルは、私に美しい思い出以外の何も与えてはくれない。

 

毎日見ても、旅行や出張で一度だけ見ても、感想はきっと同じ。

 

 

 

「綺麗だね」

 

 

 

その光を放つビルさえも霞んでしまうことが珍しくないのだから、やはり星が見えないのは大気汚染のせいもあるのだろう。

 

今年ももうすぐ汚染の悪化する季節を迎える。

 

 

 

 

 

昨年までは、この街でどうやって生きていこうか、と毎日考えていた。

 

仕事に就けない、友人もいない。

友人どころか、言葉の通じる人がいない。

 

 

結局、多忙な夫を支えることを頑張るしかなく、毎日せっせと部屋を掃除し、クックパッドと睨めっこしながら様々な料理に挑戦した。

 

 

働いている夫に比べれば全然大したことはないのだけど、異国での生活は決して楽ではなかった。

最初は1人で買い物に行くのも、バスに乗るのも怖くて、小さな子どものように緊張したのを覚えている。

 

 

 

しかし、「働いている夫に比べれば全然大したことはない」と思うと、夫に不安をぶつけてはいけない気がした。

夫のストレスが10だとすると私はせいぜい1くらいなのだから、私はいつも夫を労わらなくては。

 

 

家族や友達にも話しにくかった。

心配されたり、憐れまれたりするのは嫌だったし、「働かなくても生活できるのに贅沢な悩みだ」と思われる気がして、打ち明けられなかった。

笑い話にできるくらい時間が経ったら、ようやく話せるくらい。

 

 

 

毎日たったの1だとしても、ゼロではなかった。

確実にストレスは溜まっていった。

本当は私も誰かに労わってもらいたかった。

 

 

 

夫は、休日は家にいることが多かった。

ずっと寝ているか動画を見ているかのどちらか。

 

私はあまり寂しがり屋ではなく、お一人様も平気(むしろ好き)、ホームシックにもならないし、「旦那元気で留守がいい」と思っている。

 

だけど、私は夫の目に映っていないのかなと、さすがに虚しくなった。

毎日部屋がきちんと片付いていて、食事が出てくれば、私なんかいなくてもいいんじゃないのか?

 

私は大好きだった仕事を辞めて、家族や友人たちとも離れて、夫の仕事のためについてきたのに。

夫もついてきてくれと言ったし、夫の会社も同行推奨だったから、思い切ってついてきたのに。

最終的に決断したのは私自身だから、恩着せがましいことは言いたくないけど。

 

 

それでいて、夫は触りたい気分の時は好き放題に触ってきた。

朝だろうが、リビングだろうが、私のテンションなんかお構いなし。

 

 

「私はセックスのできる家政婦なんでしょ」

 

夫に思わずそんな言葉を投げつけて、けんかになった。

 

 

仕事のプレッシャーと戦うだけで精一杯なのに、家とスーパーを往復するだけの嫁に「もっと私にも気を遣え」と泣き喚かれ・・・

客観的に見たら、夫の方がよほど気の毒だっただろう。

 

夫に気を遣わせないように、手を煩わせないように暮らすのが、子無し駐在妻の務めみたいなものなんだから。

 

 

 

 

「こんな生活、つまらない」

 

誰かに言おうとして、何度も飲みこんだ。

 

 

自分の生活を他人に面白くしてもらおうとしてるの?

そんな言葉を口にしてはだめ。

つまらないのなら自分の責任。

嘆いている暇があったら、何とかする方法を考えろ。

 

 

 

夫の帰りが遅くなる日、わけもなく一人で外灘の夜景を見に行ったことがあった。

 

やはり星は見えなかった。

川の向こうに見えるビルたちが、ステージに立ったアイドルのように歌い踊る。

 

 

この美しい夜景を愛でるだけであと4年も過ごせるだろうか。

 

 

せめて星の1つでも見えれば。

自分の歩いていく方向が分かるのに。

 

 

ビルの灯りに照らされることのない暗い心を抱えて、多くの人々で賑わう外灘を後にした。

 

 

 

 

 

こんな鬱々とした毎日を送っていた頃を思えば、その後の私は随分頑張ったのではないかと思う。

 

 

2018年は、在住日本人のバスケサークルに加入し、現地企業でバイトを始め、現地人の友達もできた。

2019年には語学試験にも合格した。

 

 

 

 

以前は夕方5時頃までには買い物を済ませていたけど、バイトの後にスーパーに寄って帰ると早くて夜7時半になる。

 

 

疲れたなぁ、買い物袋重たいなぁ…と、マンションに入る手前で夜空を見上げた。

 

 

 

すると、マンションの棟と棟の間に星が1つ見えた。

 

1つだけだったけど。

 

 

 

あれ?

 

 

なんだ。

 

 

見えるんだ。

 

 

夜、ビルの光が遮られる場所なら、見えるんだ。

今まで気付かなかった。

 

バイトを始める前はいつも暗くなる前に帰宅していたから、見えなかったんだ。

 

 

 

私の毎日はもうつまらなくない。

 

 

 

 

 

しかしながら。

 

 

この街での生活はすでに折り返し地点を過ぎた。

 

日本に帰ってからどうするのか?

 

今度はそれを考える時期にさしかかっている。

 

 

 

夫が今の会社で働き続けるなら、また数年後に転勤になる可能性が高い。

国内でも、海外でも。

 

そうなると、私は正社員での就職は難しいのだろうか。

アルバイトや派遣など、非正規で働くことになるのか。

 

 

じゃあ、また塾講師のバイトする?

 

塾業界は常に人手不足だし、経験者は優遇されるので、採用されるのはおそらく簡単だ。

 

だけど、塾講師の仕事は好きだけど向いていないので、またやりたいかと言われると正直考えてしまう。

 

生徒との戦いの日々は、やりがいは確かにあるが、私には辛すぎる。

 

 

夫もあまり歓迎しないだろう。

私が塾で働き始めたら、授業を作るのに持てる時間の全てを注ぎ込んでしまい、毎日家事をする余裕がなくなるのは目に見えている。

 

 

生活時間もずれる。

塾は13時半~22時頃が定時なのだ。

土日休みではない場合も多い。

 

 

 

だったら、語学やバイトの経歴を活かすか…

 

 

私のバイトは営業アシスタント。

内勤なので商談に行ったりはしないが、顧客と電話やメールのやり取りはあるし、営業の仕事の全体像も一応分かっているつもりだ。

 

 

 

そう思っていたところ、ある駐在妻友達に言われた。

 

「バイトしてたことを履歴書に書いたら、違法就労について何か言われないかな?」

 

 

この国では駐在員の家族の就労は認められていない。

私は「まぁバレないでしょう」という仕事をしているけれど、万一警察にバレたら夫もろとも強制送還なのだ。

夫の会社にもどれだけ迷惑がかかるか分からない。

 

 

確かに、「本当は法律違反だけど、バレないような職場だし、周りの駐在妻もバイトしてたので私もやってました」なんて採用面接で言えるか。

規範意識や危機管理意識が低いと見なされてしまう。

 

 

じゃあ、4年半もの間、一切働いていなかったことにしなければならないの?

 

違法ではなかったかのように、何か上手い言い訳を考える…?

 

今頑張っていることが、将来の障害になるかもしれないなんて。

 

 

 

 

 

今年ももうすぐ大気汚染の悪化する季節がやって来る。

 

 

光を放つビルさえも霞む。

見えていた星も見えなくなる。

歩いていく方向が分からなくなる。

 

次の夏を迎える頃には、また星が見えるようになっていてほしい。