【思い出小説】(3/3)11年越しの願いが叶う
それから先も、私は懲りずに片想いを続けた。
部活のときも、校内でも、いつも青井先輩の姿を追っていた。
今パッと浮かぶ一番の思い出は、部活の春合宿だ。
合宿は毎年夏と春の2回。
男バス・女バスともに学校の敷地内にある施設に寝泊まりし、3日間みっちり練習をする。
その合宿のとき、普段はコンタクトレンズの青井先輩がお風呂上がりに眼鏡でいるところを目撃してしまったのである。
それはもう、恥ずかしくて直視できないほどかっこよかった。
(実際にはガン見だったけど)
かっこよすぎでしょ、反則だよ、みんなが青井先輩のかっこよさに気付いちゃうって…
ああ、思い出すだけでにやにやしてしまう。
男バスには他にもかっこいい先輩はいたけど、学校のクラスにもかっこいい男子はいたけど、相変わらず私は青井先輩以外、目に入らなかった。
3年生の6月に青井先輩たちは部活を引退。
会う機会が大幅に減ってしまったけど、青井先輩が移動教室で連絡通路を通るときはもちろんチェックしていた。
冬になると、3年生は大学入試だ。
2月は学校にほとんど来ない。
青井先輩、勉強頑張ってるかなぁ。
会いたいなぁ…
私立大学の入試が一通り終わると、合格者名が学校の廊下に張り出される。
青井先輩の名前を探した。
慶応大学
東京理科大学
まじかよ。青井先輩、半端ないって。
そして3月、青井先輩たちの卒業式を迎えた。
卒業式にはもちろん私たち2年生も参加したが、その映像はほとんど覚えていない。
式が終わり、クラスが解散し、バスケ部の先輩たちはわらわらと体育館に来ていた。
私たちも体育館に集まり、女子の先輩と一緒に写真を撮ったりした。
また、2年生の女子の中には、男バスの先輩に第2ボタンをもらいに行く人もいた。
ガチなやつじゃなくて、卒業式のお決まり的なノリだけど。
(男子の制服は学ランだった)
青井先輩も体育館に来るかな。
もし来たら…青井先輩に第2ボタンくださいって言おうかな。
そう思っていたが、青井先輩は昇降口でクラスの輪の中にいて、結局体育館には来なかった。
そのとき、女バスの誰かがふと言った。
「青井先輩、彼女いるらしいよ」
その場にいた他の女子たちは「えっ!?」と声を上げたが、私は「へえ」と言っただけだった。
別に驚くことはない。
青井先輩に彼女がいたって何も不思議じゃないくらいかっこいいことは、私は1年半前から知ってる。
そして悲しむことでもない。
私は青井先輩の彼女になりたいなんて思ったことはないし、遠くから彼の幸せを願っているだけで十分だったのだから。
青井先輩が卒業してからは、一切会うことはなかった。
何度かバスケ部のメンバーで集まることはあったが、男バスと女バスだし、学年が違うのでさすがに機会がない。
私も高校を卒業し、大学生になり、社会人になった。
別の人に恋もした。
大学1年のときには初めての彼氏もできた。
時は流れて、11年後。
高校の女バスの同期のグループLINEに連絡が入った。
「男バスの田辺からのお知らせだよ!」
田辺というのは、私たちの代の男バスの主将。
彼が結婚式を挙げることになり、女バスも都合が良ければぜひ二次会に招待したい、とのことだった。
私は女バスのメンバー数名とともに参加することにした。
田辺と私は、バスケ部だけでなく3年生のときに同じクラスだったのだ。
その後、二次会参加者のグループLINEがつくられ、私もそこに入った。
参加者一覧を開いて、私は目を見張った。
いや、嘘だ。実は少し期待していた。
青井先輩の名前が載っていたのである。
私たち女バスにも声をかけているのだから、男バスの1つ上の先輩も招待しているかもしれない。
まさにその期待通りだった。
11年ぶりに会える。
青井先輩に会える。
そのとき私には彼氏がいたし、青井先輩だって彼女がいたり結婚したりしているかもしれない。
そんなことはどうでも良い。
もしフリーだとしても、さすがに今更どうこうしたいという気は全くなかった。
でも、10年以上前に恋い焦がれた人に会える。
お互い社会人なんだし、普通に挨拶するくらいはできるかもしれない。
実は、私のLINEのパスコードは青井先輩の誕生日になっていた。
大して深い意味はないけど、私にとって絶対に忘れない数字だからだ。
それに、何と言っても青井先輩は美形なのである。
大人の男になってますます…ますます…!?
田辺をお祝いする気持ちより(おい)大人になった青井先輩に会えるのが楽しみで仕方なくて、ドキドキしながら当日を迎えた。
それまで結婚式に参加する機会があまりなかった私は、勝手がよく分からず、女バスの友だちにくっついて歩いていた。
二次会の会場はホテルの中の広い宴会場だった。
バッグはどこに置いたらいいのかな、なんて話しながら会場内に目を走らせると…
いた。
男バスがまとまって喋っている。
あそこにきっと青井先輩もいるんだ。
女バスの中の1人が挨拶に行こうと言い出した。
ついに、青井先輩と11年ぶりの再会の瞬間。
好きで好きでたまらなかった青井先輩と会える。
私は思わず手で前髪を整える。
私、あの頃よりは少し綺麗になったかなぁ。
私のこと覚えててくれてるかなぁ…
青井先輩 ――――――――・・・
しかし、青井先輩はそこにはいなかった。
あれ?青井先輩は…??
正確に言うと、私の記憶の中の青井先輩はいなかった。
私は目を疑った。
信じたくない光景が眼前に広がっている。
色白で少し小柄(身長172㎝)。
派手さがない感じも、髪形も変わっていない。
でも11年前のあの頃より少しだけ…
太っていたのである。
あれ…?
青井先輩ってこんな顔だったかな…
あの頃、毎日1秒でも長く見ていたいと思ったほどかっこよかった。
男バスにこんなかっこいい人がいたなんて、と一瞬で私を虜にしてしまったほどに。
色白で少し小柄。美形で、美形で、しかも美形で、その上美形で…
ええぇぇぇえええええ!!!?
こんなんあり!!!!???
そうか…目が大きくてパッチリしてるとか、鼻筋が通ってるとか、濃い美形は各パーツが主張するから多少太っても、美形は美形なのかもしれない。
青井先輩は薄い美形だから、パーツの配置が命。
だから顔が太って少しバランスが変動すると美形でなくなるということか。
なるほど、納得。
とか原因分析しとる場合かぁぁぁぁあ!!!
さっきまでの私の胸の高鳴りを、いや、11年間の想いを返してぇぇぇええ!!!
男バスの先輩たち曰く「青ちゃんは幸せ太りだね!」
結婚して娘が1人いるそうだ。
そうか、青井先輩はもうパパなんだ。
私はずっとずっと青井先輩の幸せを願っていたのだから、これでいいんだ。
私の願いは叶った。
ちょっとくらい太って美形の面影が無くなったって…
青井先輩が幸せならいいんだ。
その後、私や青井先輩を含むバスケ部メンバーは三次会まで参加し、居酒屋に移動。
私は青春時代の思い出がすでにだいぶダメージを受けていたけど、それでもまだ青井先輩と少しでもいいから会話してみたいという思いがあった。
女バスの友だちの隣に座るような流れで、私は青井先輩とななめ向かい合わせの席をゲット。
しかし、告白以外に話しかけたことがない相手に、どう切り出していいのか全く分からない。
そうこうしているうちに、青井先輩と男バスの先輩が酔っ払って男同士濃厚キスするところを至近距離で見る羽目になってしまった。
高校時代はこんなおふざけするタイプじゃなかったのにな…青井先輩もお酒飲んだらこうなるんだね。
と思いつつ、酔っ払ってキスしちゃうとか見ていて気持ちの良いものではないけど、特に驚くほどのことでもない。
私もアラサー。
みんな大人になったのだ。
時の流れは残酷ね。
結局、青井先輩とは会話することなく会は終了。
取り皿を手渡すくらいはした…かもしれない。
帰り道、思い出は美しいまましまっておくべきだな…としみじみ感じた。
だけど、友だちですら会う機会がどんどん減って疎遠になってしまうのに、友だちですらない好きだった人と再会できたのは奇跡的なことかもしれない。
青井先輩、あんなにかっこよかったのになぁ…と落胆しつつ、「奥さん可愛いのかな」と一瞬思ったことは内緒である。
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終わりに
なっが!!!さっむ!!!きっも!!!なっっっが!!!!!
よくぞここまでお読みくださいました。
何でいきなりこんな痛々しい私の青春時代を長々書いたのかというと、Twitterである方のツイートを見たことがきっかけでした。
(勝手にお名前出していいのか分からなかったので一応伏せます…)
会いたい人のために車ぶっ飛ばしてる時間って、ロマンチックでいいですよね。
至福。
心のブレーキ、どっか行っちゃいましたね。
車は至って、安全運転です。
これを読んだとき、友だちの自転車の後ろに乗って好きな人を追いかけた、バレンタインの夜のことを思い出したのです。
その後、Twitter上で何度かリプのやり取りをさせていただいているうちに記事に書きたくなって、3日かけてこんなもんを仕上げてしまいました…
Twitterでは文字数の関係で大幅に端折りましたが、実際に自転車をこいだのは私ではなく友だちの亜実でした。すいません。笑
それと、Twitterで青井先輩に振られたかのように書いたくせに、実は「付き合って下さい」は言ってないっていう。
でも、私にとってはホワイトデーの出来事が振られたも同然だったのです。
高校時代の青井先輩は本当にかっこよくて、私の人生30年間で出会った一般人男性の中では一番かっこいいです。
顔だけなら夫よりも。笑
途中で少し触れましたが、私は身近で接点の多い人をいつも好きになっていました。
友だちになってから好きになることが多いというか。
遠くから見ている恋は、青井先輩が最初で最後でした。
実際、どんな性格の人なのか、どんな声で喋るのかさえほとんど知らない人をよくずっと好きでいたなぁと、今でも少し不思議です。
私の中の青井先輩の思い出をこうしてまとまった(?)文章にできて、何だか感慨深いです。
もうさすがに青井先輩に会う機会はないかなと思いますが、幸せな家庭を築いて元気に暮らしていることを祈っています。
あと、やっぱりちょっとダイエットもしてほしいと思います。
それでは、今回はこの辺で。
お読みくださって、ありがとうございました。